馬上少年
馬上少年、空を仰ぐ。
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2011.05.26 Thursday
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2011.03.20 Sunday
うすぼんやりとした意識が、さざ波に打ち砕かれていた。
砂嵐の感覚は、ある映像を古いフィルムの様に映し出す。
黒い煙が獣のように見えていた。
身体が接している筈の床は燃えるように熱かった、いや、燃えていた。
窓ガラスは熱に耐えきれずその身を破壊し、夜に舞って、落下した。
そんな事を、黒い煙が吐き出される窓から、ちらりちらりと見える空に思っていた。
それは自分が絶望的な状況下にある事を明確にしていた。
遠くなっていく意識、だが、下から響く人々の声をとらえていた。
『ヒーロー』が来る。
テレビや新聞で取り上げられる生粋のヒーロー。
馬鹿にするやつがむかつくほどに、憧れていた。
物語の中から、沈黙をやぶって登場した彼は幻影でもなんでもない。
小さい頃に出会いたいと夢見ていた彼を、ただ自分はひたすらに待っていた。
気がついてくれるだろうか。
今、身寄りの無い自分を。死に絶えそうな意識の自分を。
黒い煙の毛皮から、ソイツは現れた。
ベッドの足元あたりからの自分と、確実に視線が交わったのを感じた。
ヒーローの目が、大きくあけられた。ぎこちない動きで部屋を見渡した後
ヒーローは去った。
気がつかなかったのか。いや、何故あんな顔を…
そんな時、靴音が響いてきた。
他の音は一切聞こえず、靴音ははっきりと聞き取れる。脳を振動させる靴音。
自分に、浮いた感覚が襲いかかった。視界の隅に黒い影が覗き込んだ。
目を開けると、薄暗い白が目にはいった。
視線を横にずらすと、綺麗な花が生けてある。
看護師が次に見えた。一瞬驚いた後、こちらに歩いてきた。
「意識が戻られましたね。見てください、あなたの“ご家族”が花を…。」
白い色彩の中で、花ははっきりと輪郭線を際立たせていた。
「良かったですね。」
若い女の看護師が疲れた笑顔で笑った。
「一体誰が…。」
「えっと…初老のお方でしたよ。右目は義眼でしょうかね。」
「詳しく…聞かせて下さい…。」
「えっ?」
「いや、恰好とか…。」
「黒いハットに、黒いコート…紳士的な人でしたよ。」
「ありがとう、ございます。」
そんな人は身内に居なかった。というより身内は居ない。ご家族、と言うのも妙に引っかかる。
…もしかしてあの時の視線の隅を滲ませていた黒は。
看護士はだまりこくった自分をみて、疑問に思ったのだろう。心配そうにこちらを振り返る。
自分は不安をあおらない様に、会釈をかえした。
彼がどうやって面会をクリアしたのかは分からないが、とにかくお礼が言いたい。
痛みの余韻に悩みながら過ごす日々の中で、彼は思い続けていた。
図書館に行って新聞の記事を見る。
いつでもトップを飾るのはヒーローの事ばかりだった。
きっとどこにもそんな記事は載っていないのだ。あの黒いコートの男の事など。
それでも、探さずにはいられない。あの日の火事も新聞の一面を飾った。もちろん、あのヒーローも大きく写っていた。
自分の事など載っていなかった。記事には「またマジックを使った!この町のヒーローはアイツだ!」と、全員救出を祝う文字が張り付けてある。まるで形式だ。
彼は伸びをすると、真っ黒な髪を掻きながら、日の差す窓辺に向かった。
日の当たる場所に出ると、彼の黒髪は気持ちを切り替える様に、金髪へと変化した。
大学の校舎の6階は屋上だ。
そこに奇妙な青年が佇んでいた。
高い高いフェンスの上に、バランス良く両足で立つ。
その顔は、大きなコンビニの袋を頭から被って半分程見えていない。ただ風にゆられて、めくれる度に、愛嬌ある茶色のそばかすが見え隠れする。
にやりと口角を上げた彼の口許に、えくぼが二つ現れた。
すっと両腕を地面と平行に伸ばした。その緑のジャージにはF“R”Yの文字が胸に刻まれている。
「ぶぅーん!」
子供じみた声を上げながら、青年はフェンスの上で器用に回る。
かと思うと、何の恐怖もなしに、跳躍した。
「離陸ッ!」
もちろん、彼が空を飛べる超能力の持ち主では無い。
離陸した飛行機は、直ぐに目的地の“地”へと降下を始めたのだった。
明るい日差しを浴びていた。もうそろそろ、昼休みが終わってしまう。と、おぼろげに考えた。もしやこのまま何も見つからず、終わってしまうのではないか?
終わる?何が?何が終わるというんだ?
窓に背を向けて、立ち去ろうとしたとき、やたらとテンションの高いつんざく悲鳴が、彼の心臓を貫いた。
俊敏に振り返ると、木々のうなる音。思わず窓に近づき、窓をおもいきりあける。
「よお。」
彼は安堵した。つんざく声が「自殺者」のものではなかったからだ。
「またアンタか。クレイジージャンピングマン。」
「クレイジーな訳あるか。俺は将来、戦闘機のパイロットになるんだぜ。」
「わかったって。今日はどのくらい飛んだんだ?」
「ざっと32フィートくらいさ。」
「嘘付け。」
「なあ、またアレか。」
ジャンピングマンはにやけた口元を隠さずにそういった。
ジャンピングマンはジャンピングマンで、彼の事を変わり者として見ていた。
いつも図書館にいる彼目当てで飛んでいるわけではない。
ただ、この図書館は様々な噂があいまって人を寄り付かせないからだ。
だからこそ。ジャンピングマンは決まって図書館側へ飛ぶ。飛ぶ事にしていた。
なのにいつからだろう。この青年がいつもいるのだ。
理由は決まってアレだ。
「アレって言うな。いかがわしく聞こえるだろ。」
「お前の頭の方がいかがわしいんじゃないか。」
「ふざけるな。」
「あー、悪かった。悪かった。...それで?」
「...俺、目立つのはあまり得意じゃないんだ。でも、これしか方法はないって気がする。」
「なんだよ、次回予告なみだな。」
「直接接触してみようと思うんだ。」
「まてまて、なにか重要な情報でも得たのか?」
ジャンピングマンが体を乗り出したせいで、今にも木が負けそうだ。
「いや、残念ながら。」
彼は、ジャンピングマンを静止させ、腕を組む。
考えるときの癖だ。
「なにか手があるって?」
「正義のヒーローを頼るんだよ。あの時ヒーローは、俺と目が合った時に、重大な、なにかいけない事をしてしまったかのような目つきをしていた。目で分かったよ。恐怖しかなかった。」
「それは....火事の時だな。」
「そうだ。ヒーローはもしかして、俺の事を知っている。絶対なにか隠している。そう思えるんだ。ヒーローが去った後に黒服の男がきた。ヒーローと彼は、なにかつながりがあるに違いないと、俺は思った。」
「ま、沢山の可能性のうちの一つとしては、うなずけるな。」
「今度、ヒーローを...正義を追いかけてみるつもりだ。」
「拒否されたらどうする?だってアイツはお前を見殺しにしようとしたんだぜ。」
「拒否されたら、俺は、....多分、正義を邪魔するね。」
「おお、怖!」
猫の首を持ったかの様に吊り下がっているジャンピングマンは、さらに首をすくめたせいでカメの様だ。
「もちろん、タイミングははかるさ。助けたり、突き放したりしていれば、自ずと無視出来なくなるはずだ。」
「恐ろしい奴だ。なんでそんなに気になるんだよ。」
「正義のヒーローは、ヒーローだけじゃ終わらないなにかが、彼にある気がしたんだ。ジャンピングマン、お前だって、ただパイロットになりたくて飛んでるんじゃないだろ?」
「だとしたら?」
「俺はジャンピングマン、お前に似た何かがあると、あの時確信したんだ。」
ジャンピングマンは、しばらく動かなかった。
ビニール袋の中で、どういった表情を浮かべているのか、彼には分かる筈も無い。
それが目的なのかもしれない、と、瞬間、彼は思った。
「くっだらねー。くっだらねーけど、目標があって、道が見える事は大好きだ。協力するよ。」
ジャンピングマンの口元は奇妙に笑っている。
「ありがとう。」
「んー、じゃー。ワシがカッコいい名前を命名してやろう!」
なにか年寄りのような発音になったかと思えばこれだ。おふざけだ。
「なんだよ。」
「まあまあ。ヒーローはヒーロー。ダークサイドはダークサイド。色に換算するなら白と黒ってわけだ。」
「まあ、な。」
あきれた様にジャンピングマンを見る。
「グレイマンってのはどうだ!カッコいいだろ!な!」
「あのな、よくそうダサイ名前をぽんぽんと出せるよ。凄く尊敬してる。チェーン店なみのしつこさと、そういったお偉いさんが考えそうなフレーズが出る発想力に。」
「良いじゃないか。俺、いつまでもお前とか、オイ、とか、飽きてたんだよな。」
「お前が言い出したんじゃないか。お互いの名前は伏せて、友達になろうって言ってきたのは。」
「よーし、盛り上がってきた!明日の新聞はコレだ!<あの影は敵か見方か?!グレイマンあらわるッ!>だ!我ながらいい記者になれ...おい、なにしてる?」
突然ジャンピングマンの目の前が真っ暗になった。
「感動のハグ?」
ジャンピングマンがグレイマンの顔を見上げる。
「ううん、お別れのハグ。」
グレイマンが、木の枝を押さえていた手を離した。
ばっくりと既に折れていたのだ。もちろん、折れていたというより、折っていた、といった方が正しい。
グレイマンは悲鳴を上げて落ちて行く方を見ようともせず、既に始まった授業を受けるか、受けないか悩みながら図書館をあとにした。
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